大阪高等裁判所 昭和30年(う)2198号 判決
原判決摘示の罪となるべき事実の本文と、同判決末尾添付の犯罪事実一覧表とを対照すると、原判決は、被告人の本件犯罪の一部として、(一)昭和三〇年三月一〇日頃兵庫県美方郡浜坂町正法庵字奥山材木置場で金星元保管にかかる杉材二本(二)同月末頃前同所で同人保管の杉材五本(三)同年四月二日頃同所正法庵橋東詰材木置場で同人保管の杉材約三〇石(四)同月五日頃前同所で同様の杉材約一五石(五)同月七日頃前同所で同様の杉材約一五石(六)同月一一日頃前同所で同様の杉材約二〇石を窃取した事実を認定したもので、右事実は昭和三〇年七月一八日附起訴状記載の公訴事実に該当する(但し公訴事実では右杉材はいずれも金星元の所有であり(一)の杉材は三本(四)の犯行の日は四月六日頃となつている)ものであることが明らかである。しかるに本件記録を精査するに、被告人は原審第一回公判において各事実は相違なく、窃盗罪として処罰されても異議はないと述べているけれども、金星元に対する司法警察員作成昭和三〇年五月九日附供述調書には、同人は吉田建設株式会社の社長であるが右会社では本年一月五日頃前記浜坂町正法庵所在の杉立木を購入し、約一ケ月後にこれが伐採と木材の土場までの搬出を被告人に四六万円で、更に右土場から自動車に積載できる場所までの搬出を藤本某と被告人の両名に三二万円でそれぞれ請負わせ、そこから姫路までは丸通運送店に運送させる契約をして居た旨、被告人に対する司法警察員作成の昭和三〇年六月二三日附供述調書には、被告人は知人政原点判から吉田建設株式会社の社長金星元を紹介せられ、同人と同年二月一八日頃本件杉立木の現場見分に行つた結果、伐採して木馬で道路に出す作業を四六万円で請負い、その後更に荷車で自動車が着く場所まで運搬する作業を被告人と藤本孝治の両名で前記会社から三二万円で請負つたが、藤本が知らぬと言い出したので、結局被告人が単独で、伐採から自動車に積載できる位置までの作業全部を合計七八万円で請負つた訳で、自動車で駅まで運んで列車に積込む作業は浜坂の丸通の営業所が請負つた旨の記載があり、これらによると被告人は前記会社との間に締結せられた立木伐採並びに搬出の請負契約により本件木材を保管する権限があるのでなかろうかという疑を生じたので、当審において被告人に質問し、且つ証人田中卯之助を尋問したところ、それらの供述によると、被告人と前記会社との間に前記のような請負契約が成立していたことが明らかである。即ち被告人は前記会社に雇われて単に伐採並びに搬出の労務を提供していたのではなく、資材の買入、労務者の雇入、賃金の支払並びに作業監督等はすべて被告人が行つて居り、会社からは当初年少の社員一名が現場に派遣せられて来ていたが、いわゆる検寸に従事していたのみで、その後田中卯之助が会社から依頼を受けて右社員に代つて検寸をしていたけれども、いずれもその地位は会社を代表して被告人の作業を監督していたとは認められないのである。しかも右伐採並びに搬出は約三ケ月にわたるものであつたのであるから、以上の事実を綜合すると被告人は伐採現場から木材を木馬で土場に搬出し更に荷車で丸通の貨物自動車に積載する場所に搬出した上、運送会社の係員に引渡すまで右木材を業務上保管していたものといわなければならない。しかして被告人に対する司法警察員作成の昭和三〇年六月二四日附及び同年七月一日附供述調書並びに山本作一に対する司法警察員作成の同年七月四日附供述調書、山本新治郎に対する司法巡査作成の同年六月二六日附供述調書、岡口元雄に対する司法警察員作成の供述調書を綜合すれば、被告人は前記の如く田中建設株式会社から杉立木伐採並びに搬出作業を請負い伐採杉材を業務上保管中(一)昭和三〇年三月一〇日頃前記浜坂町字浜坂山本作一方で同人に対し杉材二本を代金二、〇〇〇円で(二)同月末頃同町同字山本新治郎方で同人に対し杉材五本を代金九、〇〇〇円で(三)同年四月二日頃同町元堀町岡口元雄方で同人に対し杉材約三〇石を代金三九、二〇〇円で(四)同月五日頃前同所で同人に対し杉材約一五石を代金一九、〇〇〇円で(五)同月七日頃前同所で同人に対し杉材約一五石を代金一九、〇〇〇円で(六)同月一一日頃前同所で同人に対し杉材約二〇石を代金二八、〇〇〇円でそれぞれ売却横領したことを認めることができる。もつとも金星元に対する司法巡査作成昭和三〇年六月三〇日供述調書には「作業の性質上被告人との契約は材木の管理まで委任して居りません」との供述記載があるけれども、右供述はたやすく措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠は存しない。されば原判決が冒頭説示の如く窃盗なりと認定したのは事実を誤認したものといわなければならない。なお弁護人は被告人は本件杉木を留置権に基き占有していたものの如く主張するけれども、留置権は債権が弁済期に在ることを要するものなるところ、本件請負代金はいわゆる出来高払及び作業完了後清算払の約であり、従つて本件横領にかかる杉材に関する分は未だ弁済期が到来していなかつたことが記録上明らかであるから右主張は採用し難い。しかして検察官は当審において被告人に対する公訴事実中木材にかかる窃盗の訴因につき前段説示と同趣旨の業務上横領の訴因並びに罰条を予備的に追加したので、もとより右窃盗と業務上横領とは公訴事実の同一性を害しないから、前段説示のとおりの事実認定をなし得るものというべきである。さればこの点において、原判決には事実の誤認があることとなる。そして本件公訴事実の一部が窃盗でなく業務上横領に該当するとなると、原裁判所は不法に管轄を認めたこととなり、この点において原判決は破棄を免れない。けだし業務上横領は刑法第二五三条の罪であり、罰金以下の刑にあたる罪又は選択刑として罰金が定められている罪に該当しないから、裁判所法第三三条第一項第二号により簡易裁判所の管轄に属しないことが明らかである。
よつて刑事訴訟法第三九七条第一項第三七八条第一号第三八二条により原判決を破棄し、同法第三九九条第二条第一項第三条第一項に則り本件を管轄第一審裁判所たる大阪地方裁判所に移送すべきものとし、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 岡利裕 判事 国政真男 判事 石丸弘衛)